昨日(日曜日)の昼下がり、アトリエからほど近い那珂川河畔で、家内と花見をしました。 ブルーシートで覆われる花見の人気スポットは苦手なので、ほとんど人影が無いここで、お忍びのさくら刈りです。
さくらの花片が流れ逝く川面
しとしと雨が降るなか、対岸の桜並木の下を見ると、一本の傘を深めにさした若い男女がゆっくり歩いていました。 二人にとって、恵みの雨か、いや甘い雨か。
しっぽり濡れた静かな川岸の景色は、蕪村の俳画のように優しく暖かい絵でした。
春雨や ものがたりゆく 蓑みのと傘 蕪村
蕪村が詠んだ二人は、蓑を被った夫と傘の妻か、師と弟子か。それとも道行きの恋人か。駆落ちの恋人だったら、傘は蛇の目がいい。番傘や透明ビニール傘じゃ風情がありません。
蕪村がみたものは、芭蕉と曾良の旅姿だったと、 わたくし勝手に想いました。
誰も来ないので、鴉からすの啼き声だけが上空に響きます。 足元には、お弁当を狙った鳩たちが四方から集まって来ました。 鴉を意識してか無言です。
「月さま、雨が・・・ 」
「春雨じゃ、かまわぬ、濡れて行こう・・・ 」
♪ぬれて行こうか ぬれずに行こか
花の祗園の 灯もゆれる
袖に降れ降れ 恋の雨
花の祗園の 灯もゆれる
袖に降れ降れ 恋の雨
松竹映画 『月形半平太』 主題歌より 歌:東海林しょうじ太郎
幕末勤王の志士 「月形半平太」と、祇園の芸者 「梅松」の名セリフが、わたしたち二人を包みました。
花といえばさくらであり、チューリップやパンジーではない時代の大人の恋です。
酒といえば清酒であって、焼酎やビール、ウィスキーではない時代の信頼し合った恋です。
フードのコートを持っては来たものの、花散らしの雨がひどくなったので、透明傘を開いて 花見をお開き。
鳩が邪魔してくれましたが、しばらくの間、夫婦だけの幻想宇宙を持つことが出来ました。