本屋に出かけると、アナログレコードやカセットテープ、そして80年代前後のFM雑誌やステレオ装置を特集した本が目に付くようになりました。 往年のファンだけでなく、若者向けの本も出版されています。
それらの新刊本は、「ハイレゾ」や「ダウンロード」 などのタイトルが躍る、わたしにはサッパリの最新技術を紹介した音楽本の間に挟まって、善戦しています。
隣りあう背表紙を見ていたら、周回遅れのランナーと、先に走る先頭ランナーがゴール付近で重なっているようにも見えます。
十代の人から、「CDやDVDの回転系のツールは もう古いよ」 と言われてしまうこの頃です。わたしのアトリエでは、アナログレコードやカセットテープはバリバリの現役ですし、ブラウン管テレビで見るレーザーディスクやVHSビデオテープもミュージカル映画やオペラの音楽鑑賞に一役買っています。 来客があれば、手廻し蓄音機でキコキコとSP盤を鳴かすこともあります。
ドイツ シャルプラッテンレコード 発売: 徳間音楽工業ET-3081 (LP)
前置きが長くなりました。
今日は、レコード盤が汚れたり傷つかないよう保護するパッケージ、“レコードジャケット” のお気に入りアルバムの中から1枚を紹介します。
「ジャケ買い」 ――ジャケットのデザインや写真などが気に入ってレコードを購入することを指しますが、ルネサンスの貴婦人に心奪われ、ジャケ買いした渾身の1枚?です。 絵だけでなく、抑制の効いた文字のデザインにも共感しました。
アルバム名は、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム,コルプス」。 曲も最高です。
ジャケットの婦人像は、ルネサンスを代表するレオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた、ミラノ近郊の才媛、マントヴァ公妃・イザベラ・デステの肖像とされています。
(1490年頃、51×34㎝、板・油彩。ミラノ・アンブロジアーナ絵画館所蔵。 ジャケット写真:部分)
ところが、数年前までの画集などで解説されていましたこの絵の定説に、「待った!」の新説が入ってきました。
ロンバルディア地方のレオナルド派の画家による「貴婦人の肖像」。
レオナルド・ダ・ヴィンチではないよ、という研究発表です。
最近では、後者の説が主流です。 わたしには、どちらの説も、また、さらなる新説が参入してもおかまいなし。 この貴婦人にぞっこんなだけです。
アナログレコードの、お気に入りカバー・ジャケットを手にした時の感動は、五感を使った豊穣の世界です。 先ず理屈抜きに美しいこと、ある程度の大きさと重さ、インクや厚紙の臭い、ビニールコーティングやニスの光沢と手触り感などなど。
先述の最新技術のブラックボックスでは、この官能の世界を味わうことができません。
今までに何度かミラノを訪れ、美術館や博物館を徘徊しましたが、現地に飾られているこの貴婦人には 未だ出逢っていません。
2013年春、東京都美術館「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」 に、この絵が出品されていました。 同じ頃、わたしは北イタリアにいました。 ミラノでも東京でも お会いできなかったことは何を意味しているのでしょう。 じらされているのかな。
頭の回転が怪しくなっても、回転系のツールを使った愉しみに、こんな快感と妄想が湧き出てくる以上、やめられないでしょうね。
永遠・・・ 淡い感傷・・・ そして諦念